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2016/03/19

怜奈の大好きな上司、秋月部長との思い出



お、吉川さん今日はお弁当かい?

そろそろ師走の慌しさが漂い始めた12月の初旬、自分の机にお弁当を広げた玲奈に秋月部長が話しかけてきた。
事業本部長クラスであれば別階に個室を与えられているが、部長クラスでは各部のシマの頭に社員に向いた形で机が並べられているのが普通である。

母がお弁当作る練習くらいしなさいって。電話でうるさいんです。

玲奈は秋月の机の方を振り返り、笑いながら答えた。
玲奈は入社して10年になるが、秋月は玲奈が入社したときから既に部長であった。
仕事には厳しいが、温厚で部下に対して無理強いも、ごり押しもしない。それでいて納期も質もコントロールする。部下には気楽に話しかけ、逆に自分が道化になることも厭わない。
秋月は玲奈にとって理想的な上司だった。

部長もお弁当なんですね。
うん。なんか僕らの給料も厳しくなるみたいだしね。

秋月が冗談めかして言ったが、それはあながち冗談ではないだろう。会社の現金がショートしてくると賃金カットが行われるのは常道である。それも高給取りの上の方からというのは更に常識的な考えである。

お茶入れてきましょうか?

気を利かせて玲奈が言った。一般職とは言え、玲奈くらいのキャリアを積んだ女子社員がお茶を煎れるなどということはあり得ない。これは単純に玲奈の好意の表れだった。
もっとも給湯室まで行くつもりはなく、各階に設置された無料の給茶機でカップに緑茶を注いでくるつもりだったのだが。

いや。いいよ。この前、女房と京都を旅行したときに玉露を買ってね。

秋月がステンレス製のボトルを手にとって示した。

これだと酸化しないみたいで、お昼でも甘い渋いのが飲めるんだよ。
京都ですか。いいなー。しばらく行ってないです。
もうすぐ還暦だって、息子からのプレゼントでねえ。

秋月が嬉しそうに笑い、お弁当を食べ始めた。
秋月の笑顔には破顔という言葉がよく似合う。頬や目じりの皺すら歴史を感じさせ好印象だ。
東京マラソンにも何度か出たという痩身で引き締まった体つきと合間って、部下のみならずお客様にも安心と信頼を与える男の顔だった。
40年近く第一線で働き続けると、男の顔はこうなるのだろうか。
いや、そうではない。玲奈は他の部長や本部長とも多少の交流はあった。
それでも秋月ほど人を惹きつける役職には会わなかった。
秋月の魅力は、彼特有のものなのだ。

そんな秋月が退職するという話が1月中旬に流れはじめた。
 
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