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2016/10/28

「線虫」医師の見立ての回(1)江波の憂鬱



まったくなんて日だ。

脳神経外科医である江波は自分の執務室で頭を抱えていた。
情に絆され自分の同級生、新谷幹夫の診察に紹介状を書いてやったのが運のつき。新谷は診察を受けたにもかかわらず、その診察料を払わずに逃げたどころか、お駄賃とばかりに江波につけられているインターンの木谷美和子を、あろうことか、衆人環視の受付で襲ったというのだ。
だが、金の話はまあいい。20万少々と高いのは高いが、そんなものは自分が払ってしまえばなんとかなる。木谷へのセクハラ行為も患者が行ったことだから勘弁しろと、これもなんとか説得はできた。問題は紹介状だ。取り扱いが簡単なために、自分の勤める職場を使ったのはまずかった。院内はもうこの噂で持ちきりだろう。部長クラスの耳に入らなければいいが。まったく面倒な話だ。こんな日は早く帰るに限る。

僕はこれから会合があるので出かけるよ。今日はそのまま直帰するので、君も医局に戻りたまえ。

江波が、研究用にしつらえた別の机で専門書を読んでいた木谷に声をかけると、木谷はくるりと椅子を回して江波の方を向きなおした。こちらを向いた木谷の表情もやはり冴えない。こんな日は一緒にいるだけでお互いに窮屈になるだけだ。

はい。

とだけ木谷は答えた。
江波が自分のPCの電源を落とそうと画面に目をやると、院内システムの通知アイコンが点滅しており、なにか新しい情報が1件届いていることが表示されていた。江波は通知アイコンをクリックした。それはMRIの結果が届いたことを告げていた。

(新谷の結果か。どうせ薬物で委縮した脳を見ることになるんだろう。)

とその結果をクリックしようとしたとき、内線電話が鳴った。表示板には「検査課放射線」とだけ表示されている。

(ああ、多分、三島君だな。)

江波は暗い気持ちになった。脳神経外科医は脳内の状態や血管の状態を立体的に把握するためにMRIやMRAをよく使用する。したがって他の部署と比べれば検査課との付き合いが密だ。その中でも診療放射線技師の三島の腕は抜群で、江波は三島を指名して検査をさせることが多かった。新谷のMRIの結果がたった今、江波に送られてきたということは、これは三島からの電話に違いないのだった。
億劫だが江波は受話器を取った。

はい。江波です。
あ、江波先生。三島です。
やあどうも。検査結果を送ってくれたんだろう。
あ、ええ。江波先生、ちょっと大変みたいですね。
君にまで話がいってるのか。まあ、色々とね。
それで中身は見られましたか?
いや、まだだ。

江波は院内システムの通知に張られた画像へのリンクをクリックして、立ち上がった3Dシステム上でマウスホイールをくるくると回し、脳の立体画像を確認した。有機溶剤でもやったのか、若干、前頭部の大脳皮質の萎縮が見られるが、もともと新谷の脳室が大きいのかもしれない。以前の画像がないとはっきりしたことは言えない。

見たよ。現時点、僕からは特段の所見はないな。
そうですか。下半身の方もお送りしたいのですが・・・
ああ、下も撮ったんだったね。何か気になることがあるのかい?
私は専門家ではありませんので、意見は差し控えます。

こういうところが三島の信用できるところだった。診療放射線技師として撮り方も処理の仕方も抜群に上手い。そのくせにでしゃばったところがない。情報の確度を保つことのできる、信頼のおける男だ。

分かった。そういう意味では僕も専門じゃないからな。じゃあ、泌尿器科の飯田先生にメールを入れておくので、それは飯田先生に送っておいてください。

江波は三島に礼を言って受話器を置くと、早速、泌尿器科の飯田にMRIの判断をお願いする旨のメールを書いて送信した。飯田医師とは昨日も昼食を共にし意見交換をしあった仲だ。的確な回答をくれるだろう。
 
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