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2017/07/30

桜井先輩の店コン講座



電話の向こうでは桜井が缶ビールの一口目を喉に流し込んでいるのか、しばらく無音状態が続き、その後、ぷはーっという小気味のいい音とともに桜井の声が返ってきた。

桜:あー。生き返るわー。それでなにが聞きたいんだっけ。
真:いやーそれが何を聞けばいいのかも分からなくて。
桜:真由ちゃん、店コンも初めてだっけか。
真:そうなんです。
桜:そっか。ざっくり店コンは見知らぬ人同士の合コンと言えば合コンなんだけど、基本的に個人戦ね。カップルで話をするためのイベントが最初から決まってて、仕切りがしっかり入るから流れ作業的な感じで進んでいくって思えばいいかな。
真:ねるとん紅鯨団みたいな?
桜:あんた古いねえ(笑)本当に知ってるの?
真:いやー。あ、じゃあナイナイのお見合いみたいな感じですか。
桜:ま、そんな感じ。でもねえ最後に「よろしくお願いします!」みたいな男の戦いを期待してるんなら、それはないよ(笑)
真:ないんですか。
桜:ないない。だってそういうの恥ずかしいじゃん。密かに参加してる人もいるだろうし。だから淡々と進んでいく感じかな。
真:淡々とですか。
桜:フリータイム以外はね。一番の盛り上がりはやっぱりフリータイムよ。真由ちゃん若いから男の人いっぱい来るんじゃない。
真:なんか怖いですね。
桜:怖くないよ。向こうが色々話してくれるから、それに受け答えしてればいいだけだし。
真:でも好みじゃない人もいっぱい来るわけじゃないですか。
桜:それ言ってたらどこにも出れないよ。好みの人には自分から積極的に行くしかないよね。

その通りである。真由子は何も言えなかった。

桜:あ、ごめんごめん。えーっとねえ。最初は1分区切りぐらいで男性がクルクル変わる、全員と話すようなイベントがあるはず。だいたいそう。
真:ええ…それナイナイでもやってました。
桜:それそれ。そこで良いなって思う人に目星をつけるのよ。ここが勝負ね。
真:え、第一印象の紙とか書くんですか?
桜:それはやるとことやらないところがあるけど、あんまりないかな。希望の相手書くのは一番最後のところが多いよ。
真:最後にカップル成立?
桜:そう。成立した男女を舞台に上げるところもあるし、年齢層が高いと派手目なのを嫌がるから、スタッフが紙を渡すとかもあるね。
真:姉さん一緒に行ってくれると安心なんだけどなあ…
桜:最初に言ったでしょ。店コンは基本的に個人戦だから、あたしが居ても助けにならないよ。
真:ですか。
桜:それに…
真:はい?
桜:ううん。えっと、どのあたりのお店に行くんだっけ。
真:津田沼とか西船か船橋あたりかなーって思ってるんですが。
桜:あー。
真:なんですか。
桜:私もまあまあ行ってた時期があってね。店コンにくる男性って結構重なること多いんだよね。
真:重なるって、同じ人に会うってことですか。
桜:そう。来る人ってだいたい決まってるの。ああ、あそこで見たなって感じで。まあ向こうも思ってるだろうけど(笑)
真:そういうのあるんですね。
桜:うん。店側も集客を絞り込むし、こっちも募集条件を見たうえで申し込むでしょう? 狭い範囲だと重なるのよ。
真:同じ属性ってことか。なんだか分かる気がします。
桜:だから彼氏を決めるなら早い段階で決めないとね。店コンは同じ時期に回数重ねると冷めてくるんだよー。またあいつかってね。

たわいもないことも含め二人の話は延々と続いたが、3時半を回ったところで、真由子の明日の仕事を気遣って桜井から話を切り上げた。
真由子にとってはとても為になる話の連続であった。
流石、経験者は違う。
 
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2017/06/28

新卒女子、桜井先輩に店コンについて聞く



店コンに対する期待を抑えきれなくなった真由子は、深夜にも関わらず、頼れる桜井先輩にLINEを送った。
桜井先輩は、真由子の街コン初参加時に女性カップルの片割れとして割り当てられ、街コンのルールを色々と教えてくれた女性だ。
最初はぶっきらぼうでとっつき難い人間に思えたが、例の街コンでは真由子を大いに楽しませ、自分も楽しみ、経験からくる知恵を惜しみなく注いでくれる人間だと分かった。
桜井の人柄に触れた真由子は、それ以降もLINEで桜井とのつながりを保っていた。

今回、新たに思い立った店コンという選択肢に対して、真由子はまだ想像の範囲でしかものを考えられない。
経験豊富な桜井は、そういうリクエストにも答え、アドバイスを与えてくれるはずだ。
時刻はすでに午前0時を回っていた。
だが、桜井は夜のお店に勤めているし、先日までの2人のLINEのやりとりが0時過ぎてからの方が盛り上がっていたことを考えると、今日もきっと大丈夫だろう。

真由子> 桜井姉さんこんばんわー
桜井瑞樹> お、真由ちゃんどうした?
真由子> 今大丈夫ですか?
桜井瑞樹> うん。お店終了。もうすぐ帰るよ。
真由子> 良かったー。あの…ちょっと聞きたいことがあって。
桜井瑞樹> どした。あらたまって。
真由子> へへー。店コンってあるじゃないですか。
桜井瑞樹> あるねえ。今度はそっち?
真由子> そっちです…
桜井瑞樹> まあ、若いしトライするのは良いことよ。
真由子> 色々、教えてもらえないかなーと思って。
桜井瑞樹> あー。そっか。えっとねえ。家に帰ってからTELするでいい?
真由子> あ、ぜんぜんOKです。
桜井瑞樹> わかった。後で電話するね。2時くらいになると思うけど。
真由子> 大丈夫です。すみません。
桜井瑞樹> おっけー。


思った通り、桜井はやはり頼れる先輩だった。
仕事に燃える性質の真由子は女同士のネチネチとした関係が苦手で、そういう意味では桜井の夜の女性特有のさばさばした性格は、真由子にとってとても付き合いやすいと感じるものだった。
出会い系方面に疎い真由子はいつも頼ってばかりで申し訳ないと感じているのだが、そんなこと気にしなくていいよと言ってくれる桜井の優しさについ甘えてしまうのだった。
「反省しなきゃ」と思いながら、安心した真由子はPCの蓋を閉じてスリープモードにしお風呂に向かった。

・・・

2時少し前、約束通り桜井がLINE通話をかけてきてくれた。

桜:もしもし、遅くなったねー。ごめんねー。今着いたよ。
真:姉さん、遅くにすみません。
桜:いいのいいの。それでなに? 今度は店コンだって?
真:そうなんです。頼れるところなくて。姉さん、詳しいですか。
桜:詳しいかどうかって言われると、まあ昔は行ってたけどねえ。
真:ふむふむ。
桜:あ、でも、あたしもお店があるからそんなに回数は行ってないよ。
真:いやーでもなにか情報もらえると嬉しいな。姉さんの解説分かりやすいし。
桜:へっへー、持ち上げるねえ。

電話の向こうでプシュッという音が鳴った。桜井がビールのプルトップを引いた音だろう。
どうやら長い話になりそうだ。
 
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2017/06/24

真由子の街コンレポート



例の街コンから数日後、真由子は今度は店コンにトライしようとしていた。

前回の街コンでは、桜井という素晴らしい相棒というか頼れる先輩を得て、真由子は街コンに対し学ぶことが多かった。そこで得た経験を、まずは真由子なりにまとめてみた。その結果、今度は店コンに行くしかないという結論に至ったのだった。
その真由子の街コンレポートはこうだ。

真由子の街コンレポート:
街コンは市町や地元の商工会などが主催することが多く、地域的に近接する何軒かのお店と提携して開催される。これは地域経済の活性化を狙っている。
街コンは店コンに比べれば大規模なイベントのノリで、司会や仕切りについてもある程度は公が行うが、参加者の行動に関しては積極的には関与してこない。
公というのはつまり男女間の個々の話にまでは責任が持てないわけだから、当然、積極的に関与できないのだろうと推測する。
そのため、参加者の行動には大きな自由度がある。帰るのもマッチングした二人で消えてしまうのも自由だ。これは参加者にとって大きなメリットと言える。
公の団体が主催する街コンは、先に述べた地域経済の活性化のほか、最終的にはそこで出会ったカップルの市町への定着率・税収・生涯出生率のアップを狙っているわけで、その分、参加資格が緩い。
つまり地元に住む独身の男女であれば(もしくは地元でなくても)誰でもどうぞご自由にご参加くださいという感じで、気楽に参加できるという意味においてはとても良い。
参加者からするとメリットの多い街コンだが、一方で開催回数が圧倒的に少ないという現実がある。それは行政の予算の関係もあるだろうし、また行政自らが行ったイベントについては評価や総括といった後々面倒な処理もあるためと推測される。
参加者について見てみると、街コンは参加資格が緩い分、参加者の年齢層は多岐にわたる。参加費も安いので、比較的若い子が気楽に参加しているのは良い点だ。
ただ、街コンが即、結婚に結び付くかというとそうではなく、どちらかと言えば友達作り程度に納まっているのが現実だ。
参加資格が緩く、参加費も安く、仕切りもなく、参加者が自由に動けるというのがその理由だろう。


これが真由子のまとめというか初めての街コンに対する感想だ。

「No.2のマッチングサイトを、No.1に押し上げるには?」という大命題のために『「ネットとリアルの融合」そう、それはつまり「合コンに違いないわ!!!」』と意気込んで調査を続ける真由子であったが、結局、街コンから得られたのは、気軽に参加できて仕切りがあまりないということだった。
仮に真由子の思う「マッチングサイト」の「ネットとリアルの融合」は「合コンである」という図式が正しいとしても、気軽に参加できて司会の仕切りがない合コンをマッチングサイトが開くというのは、会社としてあり得ない。それは真由子にも分かった。
単純な話、リピータの確保もできなければそこに利益の構造もないからだ。

そうなると店コン。

様々な条件を付けて参加男女を絞り込み、囲い込み、夜な夜な、いたるところで怪しげに繰り広げられている店コン。これこそが本命に違いないと真由子は考えた。
そこでは、パーリーピーポー上がりの司会者が延々と場を盛り上げ、参加女性の泣き笑いの中、最終的にはねるとん紅クジラ団よろしく男性同士の「最初から決めてましたー!」「ちょぉっとまったー!」みたいなドラマチックな展開が、毎晩23時に行われているはずだ。
いや絶対にそうに違いない。これはもう、街コンよりは100倍行ってみる価値がある。あるのだー。

真由子はまた超絶燃えてきた。そこで真由子は津田沼と西船で近々開かれる店コンの情報をネットで検索し、PCの画面を立ち上げたまま、例の桜井先輩にLINEを送った。
こんなときに頼れる先輩と言えば、”ザ・クール”桜井しかいない。彼女ならまた新しい知恵を授けてくれるだろう。


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2017/06/03

新卒女子、街コン、ファイト!ファイト!



最初の30分で分かったことは、紙に名前を書いてカップル成立的な仕切りのイベントは、少なくともこの「街コン」においてはないということだ。
つまり自分がどれだけ好みの男性の傍をキープし、会話をして、自分自身を売り込むか。また、最後にLINEを交換して今後につなげられるか。
ここが勝負の分かれ目ということだ。そういう意味において、完全に割り切っている桜井”先輩”の行動は、極めて正しい。
次の30分に向けて席替えが始まり、男性陣が大テーブルの席に埋まり始めていたが、そのタイミングで桜井が真由子に耳打ちしてきた。

真由ちゃんさ、ここは若い子が多いし店変わろう。それともあなた残る?
え、友達ペアって別れても大丈夫なんですか?
さっきの見てもわかると思うけど、この街コンは仕切りがないから分かれても大丈夫。どうせ最終的には別れるしね。
そういうもんなんですか。
うん、だって連れが「帰ろ~」とか言い出すと面倒でしょ。

女同士の足の引っ張り合いは真由子も疑問に思っていたところだ。まったく桜井”先輩”には隙がない。むしろこの人とLINEを交わしたいくらいだ。

一緒に移ります。桜井先輩に付いていきます。
うん。じゃあ行こう。

隣の席に着きかけたクレリックシャツのボンボン風男子を押しのけて、二人は最初の店を後にした。

真由ちゃんさ、お腹はいっぱいにしたかな~?
もちろんです。言いつけ通りに食べつくしました。
いや、そこまで食べなくてもいいんだけど(笑) 次のお店はちょっと雰囲気あるところだから。
食事はないってことですね。
そう。それで、最初の30分は余りの男子をあてがわれるだけだから期待しないで。狙いは2巡目ね。
なるほど。
ちょっと暗い店だけど、お店に入ったら好みの人を探しながら歩いてね。
えーっ。
自分からいけないなら、ちょっといい女の素振りで歩けばOKだから。
じゃあそうします。
あ、ここ。ここ。

2件目のお店は居酒屋と言いながら、少し照明の暗い、雰囲気があるお店だった。
その店で余っていた男性は4名で、知り合い同士なのかカウンターに陣取って男性だけで盛り上がっていた。
チケットを見せた真由子と桜井はカウンターに案内されたのだが、その途中、桜井が真由子に「カウンターは悪くないよ」と小声で耳打ちしてきた。
事実、カウンターに集う男性は年齢も25歳から少し上くらい、清潔感のある落ち着いたスーツ姿の4人であった。
真由子と桜井は、それぞれが男性2名に囲まれお姫様のように扱われた。そして話してみたところ、ビンゴ!全員が公務員だったのである。
付き合いで参加したが、積極的に女性の席に向かうのも憚られ、カウンターに集っていたということであった。
カウンターの良いことはもっとある。
食べ物を取りに来た彼らの仲間が、ひっきりなしに知り合いに声をかけ、そのついでに真由子と桜井にも絡んでいく。
結局、30分が経過したが彼女らは場所を移動することなく、2周目も3周目も別の男性公務員と飲むことになったのである。

20時半になり桜井が言った。「真由ちゃん、そろそろ出ましょう。」カウンターに座る男性が引き留めようとしたが、桜井は余裕の笑顔でかわした。
店の表に出ると、桜井は駅に向かって歩き始めた。真由子にはなにがなんだか分からない。

桜井先輩!
真由ちゃん。ここからは一人ね。

少し離れた桜井の手にはLINEの画面が光っていた。ああ、そっか。誰かに決めたんだ。真由子はそう思って桜井の後姿を見送った。
遅れて鞄から取り出した真由子のスマホにもLINEのバッチが光っているが、それが誰からなのか分からなかった。
スマホから目を上げると、もう桜井の姿は夜の闇に紛れている。
きっと彼女はいい人と楽しい夜を送るんだろう。
これが街コンか。

真由子はそう思った。

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2017/06/02

新卒女子、街コン、ファイト!



街コンの開始予定は17時だが、二人は比較的ぎりぎりにお店に到着した。
先ほど席まで通された通路の途中で見た感じでは、一軒目の雰囲気は、事前に到着して飲み始め大声で話しているマッチョなお兄さんたちあり、律儀に開始の合図を待っているスーツ姿あり、学生のようなさわやかな姿の青年ありで場は混沌としている。
ぱっと見、女性陣はまだ雰囲気に慣れず一緒に来たペア同士で話している感じだが、一部、黒いギャルたちは自分たちのノリを周りに広げ、若い学生ノリの男性たちと盛り上がっていた。
流石にあれにはつていけないが、まあ、一部を除けば全員開始の合図を待っている状態だった。

桜井”先輩”の話によれば、最初は男女が分かれないように、取りあえず男性だけで女性がいない席にあてがわれるので、まず良い男はヒットはしないと。
勝負は30分ごとの席替え、もしくは店替えなので、一発目は気が向けば話せばいいし、気に入らなければガン無視でもOK。
とにかく一軒目は、肉か穀物系の料理を食べて、まずは腹を満たすことが大事とのことだった。
それについて真由子は反対を唱えたが、酔わないようにお酒は控え目、最初にお腹にモノを入れるのもそのためだと桜井に教わった。
もっと言うと、桜井”先輩”は15時に食事をして取りあえずお腹を満たし「男を見定めるために」絶対に酔わないように備えているとのことであった。

(ぷ、ぷろだ。こいつには逆らっちゃいけねえ。)

桜井の用意周到さに感銘を受けた真由子は、桜井”先輩”の忠告に乗っかることにした。

場が開くまで真由子はそわそわと落ち着かなかったが、周りと適当に話を流しているうちに、17時、定刻通りに”一応配置された”司会者の下で船橋街コンが開始された。
これまで定刻を守るべしと抑圧されていたスーツ組が、さっそく一斉に隣に配置された女子達に話しかけ始めた。
真由子と桜井の通された席は店の奥の大テーブルで、桜井の隣がガテン系2人組、真由子の隣がサラリーマン風2人組であった。
桜井は最初から公務員狙いであったため、ガテン系のお兄ちゃんたちに興味はなく、てきぱきと指示して、二人に食べ物を取りに行かせていた。
街コンにおいてオードブルを席に運んでくるのは元来ポイントの高い行動ではあるが、それについて桜井はガン無視、いきおいサラリーマン風に声をかけた。
真由子は後輩としてふるまい、ガテン系の取ってきた皿に手を伸ばして、美味しいと言われるオードブルに手を付けつつ、桜井の話を伺った。
ガテン系の兄ちゃんたちは桜井に脈なしと見るや、速攻で反対の席に着いた2人組にターゲットを切り替えた。
わずか10分の間にそれぞれの見極めが交錯しあう。冷静に研究を続ける真由子にとって、目に映るその光景はまさに戦場であった。

ところで真由子の左のサラリーマン風2名に色々と話を聞いてみると、彼らは正にサラリーマンであった。
津田沼の工場に勤める二人組。よく分からないながら今日はバチッとスーツで決めてきたということ。真由子とを同じである。
工場の人!それが分かった瞬間から桜井の態度が変わった。そう、桜井は公務員狙いである。工場勤務なら、夜のお店でどうぞってなもんである。

真由子は微妙な桜井先輩の変化、しなの消え具合を感じながら、桜井と男性二人の間に挟まれていた。
最初の30分がそろそろ経とうという時に、桜井に目配せをもらい、真由子はトイレに立った。
桜井は、隣のガテン系のお兄ちゃんに、ちょっとどいて、ぐらいの勢いで席を立ち上がった。

あのさー。やっぱ、あれはないから。

トイレで桜井先輩はマスカラの乗り具合を直していた。真由子は手を洗いながら問い返した。

え、あれって、えーっとサラリーマンさんですか?
そう。LINEだけ交換してぶっちしよう。
LINEですか?
うん、まあ、そこはお付き合い程度にね。交換くらいは。
えーっと。
お付き合いね。
ういっす。

なんだか凄い体育会系になった感じだ。

席に戻ると、ちょうど30分経過した段階だった。
男性陣からLINEの交換を求められ、真由子は快く応じた。
驚いたのはまったく話もできなかったマッチョからもLINEの交換を求められたことだ。

そう言えば店に入る前に桜井先輩から、『「街コン」は友達を作るところだから。結婚とか重く考えずに、LINEくらい誰でも交換するからね。いやならブロックして終了。その場はうまく収めないと面倒。大丈夫よね?』という言葉をもらっていた。
うん。ガテン兄ちゃんの向こうのほうはちょっと好みなんだけど、多分、灰色のダサいスーツの私は、彼らと二度と会うことはないだろう。
そう思いつつ、真由はふるふるした。

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2017/05/31

新卒女子、街コン最初のお店へ



受付は船橋北口のホテルであったが、街コン自体は南口の居酒屋10軒を17時から21時まで借り切ってのものであった。
ホテルから駅を抜け最初の居酒屋へ向かう道すがら、真由子は、今日一日を楽しく過ごすために、”桜井”女子に話しかけた。

あーすみません。初めまして。鮎川真由子です。
桜井瑞樹。

真由子の前を歩きながらぶっきらぼうに桜井が答えた。恰好は可愛いのにとりつくしまもない。次の問いかけを何にしようかと真由子が考えていると、桜井の方から声をかけられた。

いくつ?
え、あ、はい。23です。
あたし25。今日はマジ出会い狙いなの?
あ、えーっと、初めて参加するんでちょっと分かりません。
あ、そう?

あれ? なんだか急に口調が優しくなったように感じた。桜井が振り返り、先ほどとは明らかに違う態度で真由子に話しかけ始めた。

あんた、せっかくの街コンなのになんでその格好なの?

桜井が口に手を当てきゃらきゃらと笑った。多分、男性向けの可愛らしい笑い方だ。
真由子は入念にお風呂に入り髪と化粧は自分なりにばっちりと決めてきたが、確かに洋服については地味目のスーツだった。何を着てくればいいか分からなかったので、取りあえずどこに出ても嫌味のない恰好ということでこれに落ち着いたのだった。

あのねー。もうちょっとそそる恰好しないとモテないよ。
すみません。
まいっかあ。あたし本当は飲み屋に勤めてるんだけど、今日は美容部員ってことにしようと思うの。それで、真由ちゃんさ。あんた新人の後輩。どう?
どうって、よくわかりません。
ああ。基本、友達同士のペアで来ることになってるから、あたしが美容部員の先輩で、あなたは新人。シングルって向こうも面倒なのよ。だから真由ちゃん、桜井さんの関係でいきましょ。
あー。そういうことですか。それ良いですね。
良いでしょう?
じゃあ真由ちゃんって呼んでいい?
良いです。先輩。
それそれ。そのノリよ。

桜井の顔に笑顔が灯り、真由子は急に桜井に親しみを感じた。そうやってあらためて見ると、桜井は丸っとした顔だが切れ長の目が綺麗なお姉さんとも言える。そんな桜井の話は続く。

今日は公務員の若い人も多いんだって。
あー、それさっき聞きましたよ。参加者を無理やり集めたって。
それよ。あたし今日は頑張るからフォロー頼むね。
私は初めてなんで、色々教えてください。
任しといて。結構通だし(笑)でも邪魔すんなよー(笑)

桜井がここが良いという最初の店に案内してくれた。街コンの時間は17時から21時でパンフレットに書かれた10軒のうちどこに行っても良いということなのだが、最初に割とおいしい店でお腹を膨らませて、その後、何軒か動いて、最後に雰囲気の良い店に落ち着こうという流れのようだ。
桜井はこの辺りの飲み屋にも精通しているらしい。これは良い味方を見つけた。

時間は17時前、真由子と桜井は最初のお店に入店した。案内された席に着くまでに、男どもの視線が二人に集中する。
さあ、いよいよ戦いの始まりだ。
 

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2017/05/30

新卒女子、街コンのペア女子を待つ



15時50分、真由子は船橋駅北口にある有名ホテルのロビーにいた。
ロビーには今日の街コンの受付が用意されていて、少し時間は早かったものの真由子は既に記帳を済ませていた。
どうやらここは当日受付用で、事前に申し込みのあった男女については街コン開始の17時に、直接、各々の店に出向くという段取りのようだ。
そのためロビーは全く閑散としており、真由子は受付の横で、当日ペアになるという”桜井”さんを待っていた。
手持無沙汰に立っている真由子を可哀そうに思ったのか、受付の端っこで働いているでもないちょっと髪の薄いおじさんが相手をしてくれた。

今日、初参加の方ですか。
え、あ、はい。そうです。
ご参加ありがとうございます。
あ、いえ。あの。これは県かどこかが主催の?
そうです。そうです。

頭の薄いおじさんは暇なのか、出生率や少子高齢化対策への県の取組み、それに伴う納税額の増加、街コンによる地域商店街への経済効果のお話しを聞けた。
正直、居酒屋で上司から聞けばうんざりなのだろうが、何か嫌味のないそのおじさんの話を真由子は素直に聞くことができた。まあ、それは研究に役立つと思ったからかもしれないが。
「課長!」と呼ばれておじさんが連れていかれた後は、若い男性が相手をしてくれた。聞き覚えのある甲高い声は、もしかしたら今朝、電話を受けてくれた男性かもしれない。
浅黒い肌に歯並びの綺麗なその男性は、極めて真由子の好みだったのだが、左手の薬指に光るリングを真由子は見逃さなかった。
ニコニコ顔で対応はするが、これはターゲットじゃない。っていうかターゲットってなんだ? 街コンも始まってないのに、真由子は自分で自分が可笑しくなった。

17時から21時まで、このパンフレットに書いてるお店を回り放題です。
へえ。凄いですねー。何食べてもいいんですか。
オードブルをね。で、お店に入ったら、さっき受付で渡した。あ、それ。それを見せてね。
このカードですか?
そうそう。それで、司会とかつかないから、一応、30分単位で席替えとか入れ替えとか。
お店の人が言ってくれるんですか。
うーん、多分。うちからも店ごとには行かせてるけど。どうかなあ。

気が付くと隣に女性が立っていた。「桜井さん、来られました」と受付の向こうの女性から声がかかる。
個人情報は大丈夫か?と思いながら真由子は女性に会釈した。

今日、ご一緒いただく鮎川さん、こちら桜井さん。
あ、こんにちは。
初めましてー。

一見で女の戦いは始まる。”桜井”女子。コートを羽織ってはいるが、そのコートの下の、胸元を強調した白黒のワンピース。しなを作って「初めましてー」と語尾を伸ばす感じ。なかなかのやり手の女性のようだ。これは覚悟せねばなるまい。
真由子が値踏みをしているのにも気が付かず、若いさわやか既婚者公務員は二人を引き合わせたことに満足し、彼は去っていった。

行きましょう。

先ほどの、男性がいる時とはうって変わって、低い声で”桜井”女子が真由子を促した。
 

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2017/05/29

新卒女子、街コンに参加決定!



真由子がさらに検索を続けたところ、wikiに書いてある通り「店コン」レベルの情報は既にポータルサイトに集積されており、特定の条件で絞り込みを行い、参加ボタンを押して、カード決済をすれば、あとは当日に指定のお店に行くだけで「店コン」に参加できるようだった。
「店コン」についてここまでシステマチックな運営形態が出来上がっているとすると、果たして真由子の考えているマッチングサイトとの連携が可能なのか、そして他のマッチングサイトとの差別化が可能なのか、そしてネットとリアルの融合に意味があるのか、いささか心もとない状況となっていた。

でも、現場に行かなきゃ分からないこともあるわ、きっと。
当たって砕けろよね。
どっち道、もう私、砕けちゃってるんだし。

と、自虐的な真由子であった。
真由子がポータルサイト内をくまなく見ていく内に、なんと明日、近場で開催される「街コン」を発見した。特に年齢層の指定もなく、どうやら県か市が主催する催しのようだ。

真由子にとって「街コン」はなかなかいい響きがある。まず一つは公共っぽい。真由子は最終的に「店コン」も研究対象と考えているが、最初から一人で足を運ぶには敷居が高い。その点、「街コン」であれば、なんとなくノリで来ましたーみたいな言い訳が立ちそうでもある。
その分、参加者も若いのではないか。それに不特定多数が参加するマッチングサイトとの相性も高そうだ。真由子はそう考えた。
ただ、ネックになるのは「お友達と二人一組で参加してください」とサイトに書かれたルールだ。
これについては、明日電話して聞いてみよう。真由子はそう思い、連絡先をメモに書き留め、今日は寝ることにした。

・・・明けて翌日・・・

8時、休日は10時まで惰眠をむさぼる真由子にとっては早い目覚めである。新しい考えへの期待、新しい出会いへの期待が真由子を興奮させているのかもしれない。
真由子は、ぱっと飛び起きると、部屋着に着替え、朝食をとって、部屋の掃除と洗濯を終えた。
一通り落ち着いて部屋の時計を見ると11時。件の街コンは17時開始である。
もしも参加OKとなれば、ここから再度、お風呂に入ったり、服を選んだり、髪と化粧を整えなど、自分磨きの準備もいるだろう。
研究のためと言いながら、密かに出会いにも心を躍らせている真由子だった。
時間的には今しかない。でも、つながるんだろうか。不安を抱えつつ真由子は昨日書き留めた連絡先に電話を入れた。

はい。千葉県お見合いセンターです。
あのー。船橋の街コンのウェブを見たんですが。
参加希望の方ですか。担当におつなぎします。

電話に出たのはハキハキした男性であった。それにしてもお見合いセンターってのはなんだろうか。公共施設? 昔の結婚相談所? そうこう考えているうちに電話の相手が変わった。今度はおばちゃんだった。

お待たせしました。伊東と申します。船橋街コンの件ですね。
はい。あのーウェブから申し込みしていないんですが、今日でも大丈夫ですか。
ええ。大丈夫ですよ。

思った通りだ。「店コン」であれば、狭い店の中の男女比を合わせる関係からたとえ女性であっても当日参加は断られる可能性がある。それに比べれば数店の店を不特定多数が巡る公共機関が主催する「街コン」は参加資格が緩い。特に女性に対してはそうであろう。いや、そのはずだ。

女性お二人様ですね。
いえ、それが一人なんです。すみま・・
ああ、大丈夫ですよ。よくいらっしゃいます。

食い気味に”伊東”おばちゃんが言った。え、よくいるの?と考える間もなく”伊東”おばちゃんは続けた。

同じく一人参加の女性とペアを組んでいただきます。よろしいですね。では、16時にいったん〇〇ホテルの受付までいらしてください、ペアを組みますので。それでは、まずお名前とご連絡先だけ…

ああもこうもなく、立て板に水で話が進んでいく。
流石、”伊東”おばちゃん。
昔いたというお見合い婆ってのは、こういう感じだったのかな。

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2017/05/28

新卒女子、街コンを調査



湯船の中で”街コン”を閃いたものの、実際のところ真由子は街コンの何たるかを知らない。
頭の中の感覚だけで言えば、なんとなーくだが、ネットに比べて直接出会うまでの手間が少ないのが特徴で、直接会う分だけ結婚に向けて真面目に取り組んでいる男女が集うイメージだ。
こういう時はもうすこし具体的なイメージがわくように検索するしかない。
お風呂から上がった真由子は立ち上げっぱなしのPCをスリープモードから戻し、さっそくGoogleに”街コン”を打ち込んだ。
いくつか出てきた検索結果をかき分け、まずはスタンダードにwikiを覗いてみることにする。
基礎知識がないときは、基本から入った方がいい。これは真由子の考え方だ。

えーっと。どれどれ。

街コンは、街ぐるみで行われる大型の合コンイベントである。一般的な合コンと異なり、参加者は少ない場合でも100名以上、規模の大きいものでは3000名弱にもなる。同性2名以上で1組となり、開催地区の定められた複数の飲食店を廻る。各店舗でリストバンドなどの参加証を呈示することで、制限時間内であれば定額で飲食が可能という内容で開催されるものが多い。
発祥は2004年に開催された栃木県宇都宮市の「宮コン」であり、その後、全国の都市に広がりを見せている。こういった取り組みは全国各地で開催されており、「出会いの場創出」と「地域活性化」が融合したイベントとして注目を浴びている。また最近は1店舗を貸切にした「店コン」、ショッピングモールを使った「モールコン」などさまざまな恋愛系のイベントにも派生を見せている。
最近は1店舗を貸切とした「店コン」を、街コンというケースがほとんどとなっており、年間で40万回以上開催されている。婚活にくらべ気軽に楽しく参加できるのが特徴で若い人を中心に盛り上がっている。
全国各地で開催される街コンをまとめたポータルサイトもあり、アニメやペットなど趣味を共通とした「趣味コン」や、参加者を20代限定などの年齢を制限するもの、公務員や医師・看護士など職業を制限するものなど、多種多様な形態で開催され理想の出会いを求める人たちにとって非常に有益なものとなっている。
料金はリーズナブルで、主に女性が低価格で楽しめるものが多い、飲み放題で料理もついているのが一般的な形となっている。
開催は土曜日・日曜日の午後が多く、飲食店にとってはアイドルタイムと呼ばれる来店が少ない時間帯であるため、売り上げにも貢献している。更に同じ地域内に住む人同士の出会いの機会が高くなる点も多くの人に受け入れられている理由の一つである。特に近年は少子化による若年層の人口減などで結婚に結びつくいい出会いの機会が減っていると言われるが、未婚率増加を解消する効果もある。
近年は街コンの人気をビジネスに利用する動きがあり、本来の飲食店の活性化と出会いの場をセッティングするという目的から逸脱したケースもある。そこで2012年に全国街コン協議会が発足し、公式サイトを通しての情報発信やSNSでの情報交換、全国街サミットの開催などを通して、街コン本来の趣旨を伝えるとともに街コンのモラルの維持に努めている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/街コン

ふうん。なるほどー。「街コン」と「店コン」があるのね。
「街コン」は2人一組で参加ってのが気になるところね。一緒に行ってくれる女友達とかいないしさ。
それに女2人で1セットだと「帰ろ~」なんて足の引っ張り合いにならないのかな。

学生時代の合コン経験から、こうした出会い形態に関しては比較的冷めた目の真由子であった。

それでもやっぱり「街コン」からよね。

真由子は更に検索を続けた。
 
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2017/05/19

新卒女子、街コンに目を向ける



その後も業界No.3と思わしきマッチングサイトで我流のマーケティングを続ける真由子であったが、一向に傾向をつかむことはできなかった。
その手法は前述と変わらず、大量に真由子に届く男性からのメッセージとプロフを表にまとめ、これはと思う相手にメッセージを返し、待ち合わせでこっそりと相手を評価する。
しかしその評価基準が既に”なつお”になっており、もはやこれがマーケティングなのか自分自身がただの出会い中毒なのか、訳の分からないものになっていた。
そもそもある程度整理されたビッグデータを定性的に解析するのがマーケティングであり、個人の力による情報の収集にはおのずから限界がある。
そんな基本中の基本も、出会いの興奮の渦中にある真由子は分からなくなっていたのだ。
そんな中、唯一真由子がつかんだマッチングサイトの傾向は、”ヤリ目的の男が多い”ということだけだった。

社内コンペに向けての斬新な企画を見いだせないまま、休日前の深夜に久々にゆっくりとお風呂につかりながら真由子は考えた。

なんだか結論は全くでないし、まとまらないし、ズレてるなあ。
なんだろう。あたし何が間違ってる?
業界No.2のマッチングサイトをNo.1にするための方策を考えよ。
これが命題。
No.3のサイトに目を向けたのが間違いだったのかなあ。
じゃあ、それは間違いだったと仮定するとして
基本に立ち返ってそもそもNo.2がNo.1になるためには?
そこか。
そっか。じゃあ、うーん、多分、本当に出会えること。
でも男性目線じゃなくて、女性が安心してサイトに来ること。
女性が増えれば、男性は勝手に増えるはずだし。
それで確実にカップルになることも大事。
だからヤリ目を排除しないとなあ。
女性からすると怖いもん。。。あっ!

そこで真由子が閃いたのが街コンである。

ネット上の出会いを演出するだけでなく、街コンも企画させる。
これでどうかな。たしかNo.1サイトもやっていなかったはず。
街コンの良いところは、えーっと
まず個別にメッセージのやりとりが必要ない。
うん。メッセージのやりとりは結構面倒だもんね。
二人きりで会うのは怖いから、女性の側の心理的負担も軽減できる。
それに同じ目的で集まるし、最初に見た目で判断できるもんね。
唯一の問題はあらかじめヤリ目の判断がつかないことだけど。。。
参加者の身元を押さえた上で顔を合わせれば大丈夫よね。

真由子は湯船から勢いをつけて立ち上がると速攻で体を拭い、部屋着に着替えてリビングに向かった。
洗面台の鏡に映る真由子の顔は、前回の失敗を忘れたかのように自信に満ち溢れていた。
 

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2017/05/11

新卒女子、マッチングサイトでやられちゃった



28歳サラリーマン、なつおと名乗る男はクールだった。
洗練されたスーツに穏やかな物腰、日に焼けた肌にさわやかな笑顔が似合うスポーツマン風の男だ。
その”なつお”が案内してくれたのは、駅から5分ほど歩いたところにある個室風に仕切られたイタリアンレストランで、微妙な出会いの男女がひそひそ話をするにはうってつけの場所だった。
「ここはネットで調べたんだよ」と笑う顔がまた好ましい。わざわざ私のためにというのに女は弱い。その相手がイケメンならなおさらだ。
別にマッチングサイトじゃなくても普段の生活の中で彼女くらいできるだろうと真由子は思い、それをそのまま”なつお”にぶつけてみたところ「メッセージに書いた通り貿易の仕事に携わってるんだけどなかなか忙しくてね。会社の子と付き合うと色々と問題が出てくることも多いし。」と極めて正当な回答が返ってきた。
初対面の常として最初の会話はぎこちなかったが、お酒が入るにつれ真由子が会社の愚痴などを”なつお”に相談しはじめ、”なつお”が5歳年上の余裕でそれに応えることで会話は弾んでいった。
もちろん、真由子はマッチングサイトに関する情報収集も怠らなかったが、徐々に”なつお”を男として意識し始め「いいなあ」と思うようになっていったのである。
ハウスワインから始まった食事は、いつしかフルボトルを空け、時間は10時を過ぎていた。
店を出た”なつお”が真由子を誘い、真由子はそれを断る理由をなくしていた。

まゆちゃんで良い?
うん。

”なつお”の唇が真由子の唇を覆い、手が真由子の胸に触れた。
なんだか久しぶりの感触に真由子の頭はクラクラしていた。
”なつお”は慣れた手つきで真由子のタイトスカートのホックを外し、キスをしたままジッパーを下げた。
腰の部分を下に引っ張るとスカートは真由子の足元に落ち、肌色のストッキングに覆われたショーツがほのかな灯りの中で桃色に輝いた。
”なつお”の左手はむき出しになった真由子のお尻を撫で、右手は白いブラウスのボタンを外していった。
真由子は”なつお”の背に回した手で自らの手首の部分のボタンを外し、ブラウスの行方を”なつお”に委ねた。
”なつお”はブラとストッキング姿の真由子をベッドに押し倒し、ブラの上から真由子の胸を揉むと、やがて肩から紐を抜いた。
ピンと立ったピンク色の真由子の乳首がブラの端から飛び出し、”なつお”はそれを口に含んで舌で転がした。
久しぶりの感触にお腹の奥がうずうずし始め、真由子の鼻から吐息が漏れる。
その吐息を聞いて”なつお”は真由子の背に手を回しホックを外して、露わになった両胸に顔をうずめた。
唇と胸を交互にいたぶる一方で”なつお”は真由子の下半身に手を伸ばし、ストッキングを脱がしにかかった。
真由子は腰を上げ、足を上げてそれに同調し、簡単に脱がされたストッキングはベットの向こうに投げ捨てられた。
そして”なつお”の指がショーツの中に滑り込む。最初にクリを軽くいたぶり、真由子の反応を見たうえで割れ目へと指を進める。
その指の動きは優しくまるでじらされているかのようで、真由子は足をへの字にし腰を上げた。
”なつお”は真由子からいったん体を離すと、真由子の足元まで体を下ろしショーツを下げるとともに、自らも全てを脱ぎ捨てたようだ。
再び真由子の元へ戻ってきたとき、”なつお”の厚い胸板が真由子の目の前にあった。
真由子の手の甲に”なつお”の熱いものが当たっていた。
(今からこれを受け入れるんだ)
真由子の頭はぼーっとし、しかし下半身はその期待にジンジンしていた。

・・・

翌日から”なつお”からのメッセージが途絶えた。男性側にも同じ機能があるのかは分からないが、もしかしたら真由子は”なつお”の無視籠に入れられてしまったのかもしれない。

うーん、ヤリ目的だったか、それとも既婚者だったか。
あたしも甘いなあ。

そう思う真由子だった。
 
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2017/05/09

新卒女子、マッチングサイトでファーストコンタクト



金曜日、メッセージのやり取りを続けて3日目、真由子のターゲットは3人に絞られていた。
その間、初めに選択した10人に加えて2人が候補に挙がったのだが、5人は返事が来ず、残りの4人はメッセージのやり取りの中で徐々に嫌気がさして自然消滅となった。
まあ、自然消滅というかNo.3のマッチングサイトには”無視機能”ともいうべき機能が存在したので、それを発動し、嫌なメッセージについては読むことなくゴミ箱に直行となったのである。
真由子の記録によれば、その4人はまだ見ぬ女性に対し美化しすぎたり、甘えた内容になったり、こちらのことばかり聞きたがったり、ついセックスしたいと本音を漏らしたり、まあ、要は気持ち悪かったのだ。
残った3人については、趣味の話や日々のことなど、ある程度自分を晒しつつ相手とのコミュニケーションを楽しめると思われる内容だった。
この3人は一次審査合格というところだろう。
そしてこの金曜日、真由子は男性”達”に会うことにした。

真由子の会社に近い某駅の南口。改札口を出たところの柱A、みどりの窓口横B、少し有名な銅像の前Cと、10分間隔で待ち合わせ時間を決めた。
そして真由子はその全てが見渡せる2階のマックの窓際から、やってくる男たちを見定めることにした。
最初にやってくるのは、改札口を出たところの柱Aに30歳男性サラリーマンのはずである。
真由子の携帯がピコーンと鳴り、メッセージの到着を告げた。

>着きました。”まゆゆ”はどこかな?
>もう少しかかりそうです。
>待ってます。
>服装を聞いて良いですか?

いるいる。それらしい恰好の男が改札口を出たところの柱Aに立ち、辺りを見回していた。
しかしジーンズにMA-1とか。あんたサラリーマンじゃないのか。
これはちょっとダメだ。まともな感じがしない。
真由子はちょっと躊躇しながら30歳サラリーマン(?)を無視機能に入れた。

次は、みどりの窓口横Bに26歳サラリーマン。さっきからメッセージは入っている。

>ごめんなさいもう少しかかりそうです。
>大丈夫です。
>服装を聞いて良いですか?

多分、彼だろうと目星をつけていた男性が携帯を取り出し、返信を始めた。
そして真由子の携帯がピンコーンと鳴る。間違いない。
確かにスーツ姿でサラリーマンには間違いないんだろうけど、なんかくたびれてるなあ。
肩にかけた大きなカバンのせい?それとも櫛の通ってないもじゃもじゃの髪型のせい?
これも無理だ。真由子は26歳サラリーマンを無視機能に入れた。

最後の望みは、少し有名な銅像の前Cに28歳サラリーマンだ。
約束の時間まではあと15分はある。
その時、真由子の携帯が鳴った。

>ごめん。今着いた。
 

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2017/05/08

新卒女子、マッチングサイトのメッセージを分類してみる



さてと。

会社に着くと真由子はPCを立ち上げ、その日のスケジュールを確認した。
今時点で自分が関わっている案件は3つ。
しかし、どれも今日急いで仕上げなければいけない火急の案件ではない。
そうなれば乗り掛かった舟である。
マッチングサイトの社内コンペに向けた自分自身の動きを進めるしかないだろう。
真由子は昨日からまとめ始めたノートに書いた事項を先ずはExcelにまとめた。
そして次のアクション、いよいよ携帯にたまったメッセージの調査に取り掛かることにした。

幸いに真由子の勤める会社THELABOは従業員個々の作業環境が良く、隣の席の人間とは仕切りが設けられて、誰かが何をやっているのかわからない。
また、仕事柄、携帯を触ることも多く、中には一日中携帯ゲームを行いその論評を書いている者もいるくらいで、仮に真由子が携帯を触っていたとしても何かの調査であろうと気に留める者もいないのだ。
真由子は取りあえず携帯の音だけはOFFにして、昨夜のアプリを立ち上げようと、自分の携帯のパスコードを入力した。
ホーム画面が立ち上がると、新たに5件のバッジが付いていた。

(すごいねー。)

真由子は「9:25 新たに5件のバッジ」と記録し、アプリを立ち上げた。

あなたをお気に入りに入れた人が15件います。
ショートメッセージが37件届いています。

新たに届いた5件のショートメッセージには新着マークがついていた。
お気に入りの登録者は増えていないようだ。
まあ、お気に入りに入れてもらったところで、どうアクションしていいのかも分からない。
真由子はまず、届いたメッセージと送り主のプロフィールの分類に入った。

ふう。

真由子にメッセージを送ってきた男性の年齢や住所、プロフをあらかたExcelにまとめあげ真由子は一心地ついた。
無料のサーバからもってきた甘めのコーヒーに口をつけ、改めて一覧を見直す。

20代前半は最初からやりやりたいが前面に出てるわけね。ふーん。この人たちは×と。
30代後半は無視するとして、問題は20代後半から30ちょい越えの人たちか。
医者なんてのは嘘っぽいから、サラリーマンを片っ端から当たってみるかな。

はじめまして”まゆゆ”です。
メッセージありがとうございました。
新卒のOLです。
なかなか出会いがなくて
まじめなお付き合いができたらいいなと思ってます。

真面目な話、真由子にはここ一年彼氏がいない。
リサーチ、リサーチと自分で理由付けをしつつ、実はノリノリで返信を書いてみた。
その数10件。さて、これがどう出るか。
 
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2017/05/07

新卒女子、マッチングサイトからの通知は47件!



翌朝、寝起きに携帯を確認すると、昨夜ダウンロードしたアプリに47件のバッジが付いているのが見えた。

うわ、なにこれ。すごい。
あたし適当に都内って書いただけなのに。。。

真由子は今回のプロジェクト用に作ったノートに「翌朝、47件のバッジ すげー」と書き込み、とりあえず小さなキッチンに移って朝ごはんの用意を始めた。
レタスをちぎって皿に盛り、ベーコンを焼いて、カリカリになったら卵を割ってフライパンに落とす。
ほんの僅か水を入れてオール電化のコンロのメモリを1に落とし、食パンをトースターに入れる。
30秒の目盛りに合わせてトースターのポッチをひねり、リビングのガラステーブルの上に置いた携帯を取りに行く。
実は先ほどのバッジを見て気分はノリノリなのだが、なにせ普段通りの起床セットのために出勤までの時間が迫っている。
アプリに集中して朝ご飯を食べるというルーチンワークをおろそかにしては、会社に遅刻しかねないのだ。
しかし、卵が蒸しあがり食パンが焼きあがる僅かな時間を使って、真由美はアプリを立ち上げた。

あなたをお気に入りに入れた人が15件います。
ショートメッセージが32件届いています。

真由美は後から知ったが、この業界No.3のマッチングサイトでは、お気に入りへの登録も男性からのメッセージ送信も有料であった。
なんなら普通の出会い系サイトであれば、相手のプロフィールを見ることすら有料であったりする。
この業界No.3のマッチングサイトでは、免許証などの証明書を送った男性会員に対しては、女性会員のプロフィール閲覧は無料であった。
だがそんなことは、この時点では真由美は知らない。

ふーん、登録しただけで沢山メッセージ来るんだなあ。
よし”男性会員の反応よし”って書いとこう。

くらいにしか思わなかった。
TVのスイッチを入れて何か特別なニュースが入っていないかを確認しつつ、真由子は朝食を食べた。
32件のメッセージというのが気にはなるのだが、アプリの使い方がまだよく分かっていない。
慌てて妙なことをして、自分の素性が相手に知られてしまうのはごめんだ。
後でしっかり時間を取って使い勝手やその他と合わせて記録していこうと考えていた。
 
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2017/05/06

新卒女子、マッチングサイトへ登録



最初に連絡の取れるメールアドレスか。
えーっとGoogleでも良いのかな。
それで20代前半女子にチェックを入れて、送信と。

ぽちっとボタンを押すと最初の簡易登録画面がメール受付に切り替わった。

なになに?こっちからメールを送ったから24時間以内にURLをクリックすること?ふーん。

と真由子が言うが早いか、携帯がピコーンと鳴りメールの到着を告げた。

はや!

真由子は携帯のG-Mailで到着内容を一応確認したのち、パソコンのブラウザからG-Mailを立ち上げてログインし、送られてきたメールに書かれた長い呪文のようなURLをクリックした。画面が「ようこそ!」に切り替わり、続けてもう少し詳細な情報の入力を求められた。

住所は東京都と。詳細は23区内にしておけばOKかな。ふーん、実際の住所を入れるわけじゃないんだ。
名前は本名じゃなくていいのよね。うーん、じゃあ、”まゆゆ”でいいか。
自己アピール? うわー面倒。えーと、ぽちぽちぽちと、内容は友達募集中でいいか。
相手に求めることは、うーん、25-35歳くらいで煙草を吸わないこと、清潔感、独身。
は!?独身って当たり前じゃん。大丈夫か!?
それで、写真があると返事が多いよって何かで見たな。なにかあったっけ。
あーこれこれ。盛り過ぎで私って分かんないようなやつ。
流石に身バレは怖いもんね。
てかいい人がいればそれもいいし(照)
後はなに。
え、免許証のコピーを送れって、、、それはやだなあ。
あ、携帯の番号でもいいわけ?
ふーん、じゃあ、こっち。090XXXXXXXXと。
仮登録するとピンコードが行くからそれを入力しなさいか。
オッケー。ノートに記録もしたし。これで良いでしょ。
ぽちっとな。

携帯からSMSの到着音が鳴り、ピンコードはすぐに送られてきた。

0472と。これでオッケーなわけね。

本登録完了のメールが再び携帯のG-Mailに送られてきた。
そのメールにはスマホアプリの説明もついており、いちいちパソコンからログインしなくてもアプリでメッセージの確認ができることが書かれていた。
やれることは何でもやってみようと、真由子はアプリをダウンロードし、一回目のログインを終えて、その日の作業は完了した。

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